「エンジニアから給与アップを求められているが、これ以上還元率を上げると会社の利益が残らない…」とお悩みのSES経営者の方は多いのではないでしょうか?
本記事では、SES業界における粗利率の平均値や適正な目安を客観的な数値で解説します。
さらに、利益を圧迫する多重下請けや待機問題などの原因を紐解き、明日から実践できる5つの具体的な粗利改善策をご紹介します。
自社の収益構造を見直すヒントとしてぜひお役立てください。
SES業界の平均粗利率と適正な目安
自社の粗利率が他社と比べてどうなのか、エンジニアの待遇改善と会社利益のバランスをどう取るべきか、不安を抱える経営者の方は少なくありません。
ここでは、SES業界におけるリアルな平均値と、会社を安定存続させるための適正な目安について詳しく解説します。
SES業界における平均粗利率の実態
SES業界における一般的な平均粗利率は、おおむね20%〜30%程度と言われています。
しかし、この数字は会社の規模や「商流(案件の立ち位置)」によって大きく変動するのが実態です。
例えば、エンドユーザー(事業会社)や大手SIerから直接案件を受注する「直請け(プライム)」や「2次請け」の企業であれば、中間マージンを抑えられるため、粗利率50%前後を確保しているケースも珍しくありません。
一方で、「3次請け」「4次請け」といった多重下請けの下位層に位置する企業の場合、上位の各企業にマージンを抜かれてしまうため、粗利率は15%〜20%ギリギリ、あるいはそれ以下に落ち込むこともあります。
具体例として、月額単価80万円の案件に対し、エンジニアの原価(基本給+各種手当+法定福利費等の会社負担分)が合計60万円かかった場合、粗利益は20万円となり、粗利率は25%です。
まずは現在の自社の平均単価と原価を正確に算出し、この「20%〜30%」という業界水準に対して自社がどのポジションにいるのかを、客観的に把握することが改善の第一歩となります。
| エンジニア原価 | 商流の立ち位置 | 月額単価の目安 | 粗利益 | 粗利率の目安 |
| 60万円 | 直請け(プライム) | 150万〜200万円 | 90万〜140万円 | 60.0%〜70.0% |
| 60万円 | 2次請け | 80万〜100万円 | 20万〜40万円 | 25.0%〜40.0% |
| 60万円 | 3次請け・4次請け | 50万〜65万円 | 赤字〜5万円 | 0.0%〜7.6% |
適正な粗利率の目安とは?
業界平均が20〜30%であるのに対し、経営を安定させ、さらなる事業投資(採用強化、営業担当の増員、オフィス移転など)を行うための適正な粗利率の目安は「30%以上」を一つの目標とすべきです。
ここで経営者が陥りがちな「よくある失敗例」が、現場の粗利益だけを見て「利益が出ているから大丈夫」と錯覚してしまうケースです。
全体の粗利益から、さらに営業担当者やバックオフィスの人件費、求人広告費、オフィス賃料といった「販管費(販売費及び一般管理費)」を差し引いたものが、最終的な本業の儲けである「営業利益」となります。
仮に全体の平均粗利率が20%しかなく、販管費率が17%かかっていれば、手元に残る営業利益率はわずか3%です。
この状態では、エンジニアが数名「待機(アサイン切れ)」になった瞬間、待機中の給与負担が重くのしかかり、会社全体があっという間に赤字に転落してしまいます。
不測の事態に備えるリスクヘッジを含め、最低でも25%、理想は30%以上の粗利率を確保できる事業構造を目指すことが、強固な経営基盤を作るための絶対条件です。
還元率と粗利率のジレンマ
現在、多くのSES経営者を最も悩ませているのが、エンジニアの採用難を背景とした「還元率」と「粗利率」の深刻なジレンマです。
昨今、SNSや求人媒体では「単価還元率70%〜80%」といった高還元を謳うSES企業が急増しています。
仮に還元率を70%に設定した場合、残る粗利率は計算上30%となりますが、実際にはここから会社負担分の社会保険料(給与の約15%程度)や交通費などを支払うため、実質的な会社の粗利率は10%台まで圧迫されるケースが少なくありません。
既存のエンジニアから「他社はもっと還元率が高いので給与を上げてほしい」と要求された際、顧客への請求単価(売上)を引き上げずに給与(原価)だけを上げてしまうと、会社の利益は簡単に消失します。
これが「売上や稼働人数は増えているのに、会社にキャッシュが全く残らない」という典型的な失敗パターンです。
競合他社の表面的な高還元率アピールに安易に追従するのではなく、自社が許容できる限界利益を正確に算出した上で、「給与以外の付加価値(待機中の100%給与保証、優良なキャリアパスの提示、透明性の高い評価制度など)」でエンジニアの納得感と定着を図る戦略へのシフトが求められています。
SES企業で粗利率が低下する主な原因
自社の粗利率が目標に届かない場合、そこには必ず構造的な問題が潜んでいます。
多くの中小SES企業が直面しがちな「利益を圧迫する3つの根本原因」を深掘りします。
多重下請けによる中間マージン搾取
日本のIT業界特有のピラミッド構造により、商流が深く(低く)なるほど自社の利益は減少します。
これが3次請け・4次請けを中心とする企業の粗利率が上がらない最大の要因です。
例えば、エンド企業が「月額100万円」の予算を組んでいても、1次請け、2次請けと下りる過程で各社が10〜15%程度の中間マージンを抜いていきます。
3次請けの自社に届く頃には「月額60万円」まで単価が叩かれているケースも珍しくありません。
ここでエンジニアの原価(給与+法定福利費等)が45万円かかれば、粗利は15万円(粗利率25%)に留まります。
現場でどれほど高いパフォーマンスを発揮しても、商流が低い限り、構造的に「儲からない」限界に突き当たります。

エンジニアの待機期間発生による損失
SES経営において、全体の粗利率を一気に悪化させる破壊的な要因が、アサイン切れによるエンジニアの「待機(ベンチ)」です。
売上がゼロになる一方で、固定費である給与や社会保険料は100%発生し続けるため、会社は直接的なダメージを受けます。
よくある失敗例は、現在のプロジェクトが終了してから次の案件を探し始める「後手」の営業体制です。
仮に原価40万円のエンジニアが1ヶ月待機になった場合、その赤字を埋めるには、月額粗利10万円を稼ぐ他のエンジニア4人分の利益が丸々1ヶ月分吹き飛ぶ計算になります。
たった数名の待機が発生するだけで、会社全体の粗利率は数パーセント単位で急降下します。
稼働率を常に95%以上で維持できなければ、適正な利益を残すことは不可能です。
給与高騰と案件単価の据え置き
深刻なエンジニア不足により、採用コストや既存社員の給与水準は年々高騰しています。
しかし、その「原価の増加」に対し、顧客への「請求単価の引き上げ」が追いついていないことが、粗利率低下を招いています。
多くの中小企業で見られるのが、「単価交渉をすると案件を切られるのではないか」という営業側の恐れから、何年も同じ単価で契約を更新し続けてしまうケースです。
エンジニアが現場で数年働き、ドメイン知識やリーダー業務を身につけて貢献しているにも関わらず、単価が据え置きであればどうなるでしょうか。
エンジニアからの給与アップ要求に応えるたびに、自社の身銭を切って利益を減らしている状態になります。
「原価は市場連動で上がるのに、売上単価は固定」というハサミ打ちの状況から脱却できなければ、収益力は確実にジリ貧となります。
SES企業の粗利率を改善する5つの具体策
粗利率が低い原因を特定できたら、次に行うべきは具体的な改善アクションです。
現状の経営基盤を揺るがすことなく、段階的に収益構造を強化するための5つの戦略を解説します。
商流を上げ直請け・元請け案件を獲得
粗利改善において最もインパクトが大きいのは「商流を上げること」です。
中間マージンを排除し、エンドユーザーやプライムベンダーと直接契約を結ぶことで、同一のエンジニア稼働でも売上を10〜20%引き上げることが可能になります。
具体的なアクションとしては、既存のパートナー企業(中堅SIerなど)の中でも、より上位層に近い企業へのアプローチを強化することから始めましょう。
また、営業資料を見直し、「自社にしかできない技術領域」や「特定の業務知識」を言語化して提示することで、単なる「エンジニア供給会社」から「ソリューションパートナー」としてのポジションを確立することが重要です。
よくある失敗は、闇雲に営業先を広げすぎて、結局商流の低い案件ばかりを拾ってしまうことです。
月間の新規開拓目標に「商流(プライムか否か)」という指標を加え、営業担当者が高い意識を持って上位案件を狙いに行く体制を構築してください。
既存顧客との案件単価交渉を実施する
新規獲得と並行して不可欠なのが、現在参画中の案件における単価交渉です。
「案件が切られるリスク」を恐れて交渉を避ける経営者は多いですが、適切なタイミングと根拠があれば、多くの顧客は交渉のテーブルについてくれます。
交渉に最適なタイミングは、契約更新の2ヶ月前、またはエンジニアが役割変更(リーダー昇格など)をした時です。
交渉の際は「物価高や人件費高騰」といった外部要因だけでなく、対象エンジニアが「参画当初と比較してどれだけ生産性が向上したか」「顧客の課題をどう解決したか」という定性・定量の両面から実績を可視化して伝えます。
もし単価アップが難しい場合は、現状の単価で「稼働時間を調整する(実質的な時間単価を上げる)」などの代替案も有効です。
定期的な価格見直しを契約書に盛り込むなど、ビジネスとして対等な関係を築く姿勢が、長期的な粗利改善に繋がります。
エンジニアのスキルアップと高単価化
粗利の源泉はエンジニアのスキルそのものです。
市場価値の高い技術(クラウド、セキュリティ、AI、モダンフロントエンドなど)を習得させ、高単価案件へのシフトを促すことで、無理な交渉なしに粗利率を向上させることができます。
会社として取り組むべきは、エンジニアの「リスキリング」を支援する制度設計です。
例えば、特定の高単価言語への転換を希望する社員に対し、学習期間中の給与を一部保障したり、資格取得時の報奨金を設定したりする施策が考えられます。
ここでのポイントは、エンジニアに対して「スキルアップが自身の給与にどう反映されるか」という還元スキームを明確に示すことです。
会社が利益率の高い案件を確保し、その増分をエンジニアにも適切に分配するサイクルができれば、エンジニアのモチベーション向上と会社の利益確保を両立できます。
待機期間を最小化する営業体制の構築
どれほど高い粗利率の案件を抱えていても、アサイン漏れが発生すれば利益は一瞬で消失します。
待機をゼロに近づけるためには、営業活動の「先手管理」を徹底する仕組みづくりが不可欠です。
具体的には、全稼働エンジニアの契約終了予定日を営業チームで常に共有し、終了の2ヶ月前には「継続・終了・スライド」の判断を確定させるフローを構築します。
終了が予見される場合は、その時点で即座に次期案件の提案を開始する「並行稼働」が鉄則です。
また、特定の営業担当者の個人技に頼るのではなく、パートナー企業との連携を強化し、案件情報をリアルタイムで集約する仕組みを整えましょう。
エンジニアのスキルシートを常に最新化し、いつでも即時提案できる状態にしておくという、当たり前の基礎を徹底することが、結果として最も確実に粗利を守ることになります。
チーム提案による利益率の底上げ
エンジニアを一人ずつアサインする「人月貸し」のモデルから、複数名をセットで提案する「チーム提案」へのシフトも、粗利最大化に有効な戦略です。
チーム提案のメリットは、リーダー層の高単価と、若手や微経験者の育成枠を組み合わせることで、プロジェクト全体の平均単価をコントロールできる点にあります。
例えば、100万円のリーダーと50万円のジュニア層をセットで提案し、チーム全体として付加価値を提供することで、ジュニア層単体では難しい利益額を確保することが可能です。
顧客側にとっても、教育コストを抑えつつ安定したチームを迎え入れられるメリットがあります。
自社内にリーダーを任せられる人材を育成し、その配下に若手をアサインする構造を増やすことで、若手の育成と粗利の確保を同時に達成する「持続可能なSESモデル」を構築してください。
粗利率改善に向けた経営者のアクション
現場の営業努力やエンジニアのスキルアップも重要ですが、粗利率の改善を根本から推し進めるためには、経営者自身のトップダウンによる環境整備と戦略策定が不可欠です。
ここでは、経営の舵取りとして明日から着手すべき2つの具体的なアクションを解説します。
自社の現状数値を正確に把握・分析
粗利改善の第一歩は、勘や経験に頼ったどんぶり勘定から脱却し、「自社の現状数値を正確に把握・分析」することです。
多くのSES企業で見られるよくある失敗例が、「会社全体の粗利率」だけを見て安心してしまうケースです。
全体で利益が出ていても、実は一部の高単価案件が稼いでいるだけで、蓋を開ければ「アサインはされているが、実質赤字」というプロジェクトが隠れていることは珍しくありません。
まずは具体的な手順として、エンジニア単体、およびプロジェクト単位での「本当の粗利」を可視化してください。
売上(請求単価)から、基本給や交通費だけでなく、会社負担分の法定福利費(給与の約15%程度)まできっちり差し引いた数値を算出します。
この数値を毎月モニタリングする体制を作ることで、「どの案件の単価交渉を急ぐべきか」「どの商流のプロジェクトから撤退すべきか」という、データに基づいた経営判断が可能になります。
客観的な数字の裏付けがあってこそ、営業担当者への的確な指示や、エンジニアに対する論理的な評価・還元が実現するのです。
中長期的な事業計画と戦略の見直し
現状の数値を把握した上で次に行うべきアクションは、「中長期的な事業計画と戦略の見直し」です。
SES経営において最も避けるべき失敗は、目先の待機(ベンチ)を恐れるあまり、商流の深い低単価案件や、スキルアップに繋がらない単純作業の案件にエンジニアを押し込んでしまうことです。
これを繰り返すと、エンジニアは不満を抱えて離職し、会社には低収益の構造だけが残ってしまいます。
この負のループから脱却するためには、「自社は3年後、5年後にどの技術領域(ドメイン)で勝負し、どの商流をターゲットにするのか」を明確に定義し直す必要があります。
例えば、「汎用的な業務系システム開発」から「クラウド(AWS/Azure)インフラ構築特化」や「AI・データ分析支援」など、付加価値の高い領域へ戦略的にリソースを集中させるのです。
ターゲットとする領域が明確になれば、「どのようなエンジニアを採用・育成すべきか」「どのプライムベンダーへ重点的に営業をかけるべきか」という軸が定まります。
闇雲な採用とアサインの繰り返しを断ち切り、利益を生み出し続ける強固な「構造」を設計し直すことこそが、経営者の最大の責務と言えます。
まとめ:粗利率改善で強いSES企業へ
SES業界の平均粗利率は20〜30%が目安とされていますが、会社の安定存続とエンジニアへの還元を両立するには「30%以上の確保」を目指す必要があります。
多重下請け構造や待機期間の発生、原価高騰による利益圧迫に対して、現状維持のままではジリ貧に陥るリスクが高まります。
まずは、どんぶり勘定から脱却し、プロジェクトごとの正確な粗利率を可視化することから始めてみてください。
自社の現状を客観的な数字で把握できれば、「商流を上げるための直請け・元請け開拓」や「既存顧客への単価交渉」「待機を最小化する先手の営業体制構築」など、打つべき次の一手が自ずと明確になります。
課題を一つずつクリアし、データに基づいた戦略的な経営基盤を構築することで、エンジニアからも顧客からも選ばれ続ける、収益力の高い強固なSES企業へと進化していきましょう。
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