エンジニアの数が増え、会社全体の売上高は順調に伸びているにもかかわらず、「なぜか手元に利益が残らない」と頭を抱えていませんか?
その原因は、目先の売上高だけを追いかける「売上至上主義」と、Excel等による従来のアナログな管理手法の限界にあります。
本記事では、SES企業が陥りがちな売上管理の罠を紐解き、案件ごとの収益性を一元管理して「利益が確実に残る組織」へと変革するための具体策を解説します。
SESにおける「売上至上主義」の限界
起業から数年が経ち、エンジニアの数も30名、50名と順調に増えてきたなら、会社全体の「売上高」自体は右肩上がりで成長しているはずです。
しかし、決算書や毎月の試算表を開くたびに、「これだけ現場も営業もフル回転しているのに、なぜ手元に利益が残らないのか?」と頭を抱えてはいないでしょうか。
売上増でも手元に利益が残らない理由
売上は確実に伸びているにもかかわらず、利益が圧迫されてしまう最大の原因は、案件の「薄利多売化」と「見えない原価の膨張」にあります。
組織を拡大していくフェーズでは、どうしても「まずは稼働させること」が最優先になりがちです。
エンジニアが増えるほど待機期間を恐れ、単価交渉を妥協してでもアサインするケースが増加します。
SESは「単価×稼働人数」で売上が決まるため、稼働させさえすれば会社全体の表面上の売上高は簡単に上がります。
しかし実際には、給与以外にも会社負担の社会保険料、通勤交通費、有給消化コスト、他エンジニアの待機コストや間接部門の人件費など「見えない経費」が毎月発生しています。
売上高ばかりを追いかけ、これら複雑な原価を差し引いた「真の利益率」を把握できなければ、売上が上がるほど薄利の案件が積み上がり、キャッシュフローを圧迫する赤字体質に陥ってしまうのです。
稼働人数と売上高だけを見る経営の罠
「エンジニアを遊ばせておくより、少しでも売上が立つ案件に入れた方がマシだ」。
これは経営層や営業責任者が陥りがちな危険な罠です。
一時的な待機を回避することは重要ですが、稼働率と売上高だけを営業の絶対的な評価指標(KPI)にすると、組織に致命的な歪みが生まれます。
営業は自身の目標達成のため、利益率度外視で低単価な契約を決めたり、スキルに合わない案件へ無理にアサインしたりします。
結果として現場の不満が溜まり早期退場や離職を引き起こせば、莫大な採用コストと待機コストが膨らむ悪循環に陥ります。
例えば、実質原価(給与+社保等の経費)が月45万円のエンジニアを売上50万円の案件に入れれば、粗利はわずか5万円です。
このような案件ばかりの組織では、たった1人が待機に回った瞬間、他の数名分の利益が簡単に吹き飛びます。
売上目標達成という表面的な安心感の裏で「会社の体力」は着実に削られ、わずかな市況の変化で一気に赤字転落するリスクを抱え続けるのです。
Excelによるアナログ売上管理の限界
この売上至上主義から抜け出せない背景には、社内の管理手法の限界があります。
創業期からのExcelやスプレッドシートによる管理は、従業員規模が30〜50名を超えたあたりから確実に破綻し始めます。
よくある失敗例は、営業が契約単価やアサイン状況を、バックオフィスが給与や各種経費を別々のシートで管理する情報の分断です。
データが連携していないため、月末月初に複数部署が目視で突き合わせ、手作業で案件ごとの原価計算をする羽目になります。
これでは計算ミスや転記漏れが頻発し、誰も正しい数字が分からない状態に陥ります。
さらに、度重なる数式の追加でマクロが肥大化し、特定の担当者しか扱えない属人化も深刻です。
何より致命的なのはリアルタイム性の欠如です。
経営陣が「今月の正確な利益を知りたい」と思っても、集計が終わるのは翌月の20日過ぎとなり、結果把握は常に事後になります。
赤字案件への対策を打とうにも時すでに遅しとなる、このアナログな管理体制こそがどんぶり勘定を生み、正しい経営判断を遅らせる最大のボトルネックなのです。
なぜ案件毎の収益性が不透明になるのか
組織が拡大し売上が伸びているのに、なぜか利益が見えない。
その背景には、SES特有の構造的な問題と、社内体制の不備が隠れています。
ここでは、なぜ案件ごとの「本当の利益」がブラックボックス化してしまうのか、その3つの原因を紐解いていきます。
複雑化する原価(待機費や各種保険等)
SES事業における「原価」は、エンジニアの額面給与だけではありません。
案件の収益性が不透明になる最初の原因は、この原価構造の複雑さにあります。
会社が負担している法定福利費(社会保険料の折半など)や通勤交通費をはじめ、有給休暇取得時の実質的なコスト、社内で待機している他エンジニアの人件費、さらには採用・教育経費やバックオフィスの固定費まで、本来はすべて「見えない原価」として考慮されるべきです。
よくある失敗例として、単価60万円の案件に給与30万円のエンジニアをアサインし、「粗利は30万円出ている」と単純計算してしまうケースが挙げられます。
実際には、各種保険料や間接部門の経費などを正確に按分(あんぶん)すると、手元に残る利益は数万円、あるいは実質赤字に陥っていることも少なくありません。
これらの複雑な経費を漏れなく案件ごとに紐づけて割り振る「明確な原価計算ルール」が社内に存在しないことが、収益性をブラックボックス化させる根本的な原因なのです。
営業とバックオフィス間の情報分断
2つ目の原因は、部門間における情報管理の分断です。
従業員規模が30〜50名を超えたあたりから、営業部門は「契約単価(売上)」と「アサイン状況」のみを追いかけ、バックオフィス部門は「実際の請求・給与処理」を別々に進める体制になりがちです。
営業は「いくらで受注したか」の数字が頭の中心であり、管理側は「いくら精算・支払処理をしたか」しか見ていない状態と言えます。
ここでよく起こる失敗例が、SES特有の「精算割れ」による利益圧迫のすれ違いです。
例えば、エンジニアが体調不良などで有給休暇を取得したりして、月の総稼働時間が契約上の下限時間(例:140時間)を下回ったとします。
この場合、クライアントへの請求額(売上)は控除され減額となりますが、エンジニアへの給与は有給処理などで満額発生するため、その案件の単月の利益はガクッと削られます。
しかし、契約単価しか見ていない営業側はその事態に気づかず「今月も単価60万円で順調だ」と錯覚しがちです。
後日、バックオフィスが締め作業を終えて初めて利益が薄くなっていることが発覚するのです。
このように売上と労務・経費データが連携していないため、分業体制の溝が収益性を不透明にしてしまいます。
図:営業と管理部門の情報分断が招く「見えない赤字・利益圧迫」の構造
どんぶり勘定が招く不採算案件の放置
正確な原価計算ができず、部門間の情報も分断されていると、最終的に行き着くのが「会社全体でなんとか黒字なら良し」とする危険などんぶり勘定です。
案件ごとの正確な利益率が見えていないため、実は社内リソースを大きく食いつぶしている「不採算案件(赤字スレスレの案件)」が誰にも気づかれないまま放置されてしまいます。
よくある最悪のケースとして、一部の優秀なエンジニアが担当する高単価な優良案件が稼ぎ出した貴重な利益を、複数の薄利・赤字案件が知らず知らずのうちに食いつぶしている構造に、経営陣すら気づけないことが挙げられます。
本来であれば、そのような不採算案件は早期に単価交渉のテーブルにつくか、撤退ラインを設けて高単価案件へ人員を再配置するなどのメスを入れなければなりません。
しかし、案件別の収益という「客観的な判断基準」がない状態では、どこにテコ入れすべきかの根拠がなく、対策を打つことすらできません。
結果として、忙しいばかりで利益が残らない脆弱な収益構造から抜け出せなくなってしまうのです。
案件別の収益性を一元管理するメリット
これまで述べてきたような管理の限界や情報の分断を打ち破り、利益重視の経営へシフトするためには、売上と原価のデータを統合して「一元管理」する仕組みが不可欠です。
ここでは、案件ごとの収益性をクリアにすることで、自社の経営にどのような劇的な変化が生まれるのか、3つの具体的なメリットを解説します。
締め後すぐに全案件の正確な利益を把握
最大のメリットは、集計のタイムラグを完全に排除し、正確な利益(粗利)をスピーディーに確定できる点です。
売上データと、エンジニアの基本給や会社負担分の社会保険料、有給コストといった原価データが一元管理されていれば、月末の勤怠・稼働の締め作業が完了したと同時に、すべての案件の収益性が自動的に算出されます。
従来のアナログなExcel管理では、複数部署のシートを突き合わせて手作業で計算していたため、結果が出るまでに数週間かかることも珍しくありませんでした。
集計ミスを確認する作業だけでも莫大な労力がかかります。
しかし一元管理の仕組みがあれば、締め作業の直後に「どの案件が、いくらの利益を生み出したのか」を経営陣がワンクリックで把握できるようになります。
例えば、月初の段階で前月の確定粗利が分かるため、月次決算の早期化に直結します。
「先月いくら儲かったのか」という最も重要な問いに、確かな数値で即答できるストレスフリーな環境が整うのです。
不採算案件の特定と次月への迅速な軌道修正
締め作業後すぐに精度の高い利益率が判明することで、会社全体の利益を密かに圧迫している「不採算案件」を瞬時に特定できるようになります。
例えば、前述したような有給取得等に伴う精算割れで単月の粗利が大きく削られた案件や、もともとの経費負担が重く実質赤字に陥っている案件が、誰の目にも明らかなアラートとして可視化されます。
結果を知るのが中旬や下旬へ遅れれば「時すでに遅し」となりがちですが、月初の段階ですぐに状況を把握できれば、次月以降に向けた具体的な対策を迅速に打つことが可能です。
例えば、営業担当者がクライアントへ単価交渉に赴く際にも、「御社の案件ではこれだけの稼働と実質原価が発生しており、現在の単価では継続が厳しい」という客観的な根拠データを示せるため、説得力が格段に上がります。
また、次回の契約更新タイミングに合わせて、より高単価な案件への戦略的な人員配置(アサイン変更)を計画するなど、先手先の経営判断が下せるようになります。
データが次の一手を打つための武器へと変わるのです。
営業評価を「売上」から「粗利」へ転換
収益性の一元管理は、営業組織のカルチャーそのものを変革する力を秘めています。
正確な粗利データが常に共有されるようになると、営業担当者の評価指標(KPI)を従来の「売上高」や「稼働人数」から「案件がもたらす粗利額・利益率」へとスムーズにシフトさせることができます。
売上高だけの評価では、どうしても「利益率度外視で低単価な案件でも無理に決めてくる」という行動を誘発しがちです。
よくある失敗として、粗利重視を口酸っぱく言っても、営業自身が原価計算の手間を嫌がって結局どんぶり勘定に戻るケースがあります。
しかし一元管理の仕組みがあれば、営業に集計の手間を一切かけず、自動算出されたクリアな指標で公平な評価を下せます。
結果として営業担当者は「どうすれば自社にしっかりと利益が残る案件を受注できるか」「既存案件の単価を上げるためにどのようなアプローチが必要か」を自発的に考えるようになります。
現場のエンジニアを単なる頭数として扱うのではなく、一人ひとりのスキル価値を最大化して利益へと還元する意識が芽生え、組織全体が利益の残る強い企業体質へと生まれ変わるのです。
利益重視のSES経営へシフトする手順
どんぶり勘定の「売上至上主義」から抜け出し、利益が確実に残る強い組織を作るには、段階的な管理体制の変革が必要です。
ここでは、案件ごとの収益性を一元管理し、利益重視の経営へシフトするための3つの具体的な手順を解説します。
正確な原価計算ルールの社内策定
収益性可視化の第一歩は、社内の「原価計算ルール」の明確化と統一です。
「額面給与だけが原価」といった曖昧な基準では、実質的な赤字を見逃し、正しい経営判断を下せません。
具体的には、会社負担の社会保険料や交通費はもちろん、有給休暇取得による売上減少リスクなど、毎月発生する「見えない経費」をどこまで案件原価に紐づけるかを明確に取り決めます。
よくある失敗は、オフィスの光熱費など細かな間接経費まで厳密に按分しようとして計算が複雑化し、運用が頓挫するケースです。
まずは「給与+社保等の確実な経費」といった標準ルールをシンプルに定め、誰が計算しても同じ結果になる「自社独自の原価基準」を確立することが重要です。
属人的な手作業からシステム管理へ移行
ルールが定まったら、運用手法を抜本的に見直します。
明確な基準を作っても、Excelやスプレッドシートで毎月手作業で集計していては、入力ミスやデータの先祖返りを防ぐことはできません。
組織規模が30〜50名を超えた段階で、属人的な手作業による管理から脱却する決断が必要です。
解決策として、営業が持つ「案件・アサイン情報」と、管理側が持つ「給与データ」をシームレスに統合できるシステムへ移行します。
これにより、締め作業と同時に案件別の収益が自動算出される仕組みを構築できます。
よくある失敗は、現状の複雑なExcel表をそのままシステムで再現しようとして、開発費用と時間が膨らむケースです。
標準的なシステム機能に自社の業務フローを歩み寄らせる「脱Excel」こそが、集計のタイムラグをゼロにする最短ルートとなります。
| 比較項目 | 従来のExcel・手作業管理 | 一元管理システムへの移行後 |
| 集計スピード | 遅い 締め作業後、 数週間〜翌月中旬に判明 |
リアルタイム 月末の締めと同時に 即座に自動算出 |
| データの正確性 | 低い 手入力による転記ミスや 計算式の壊れが発生 |
高い 売上・原価データが直接連動し、 人的ミスを排除 |
| 部門間の情報共有 | 分断 営業・管理が別々のシートを持ち、 実態が見えない |
シームレス 同一のデータベースを基に 全社で最新状況を共有 |
| 業務負荷・属人化 | 大 特定の担当者しか集計できず、 確認作業に追われる |
小 集計作業自体がゼロになり、 分析や単価交渉に注力可能 |
経営・営業・管理部門での利益意識共有
正確な利益データがスピーディーに可視化されたら、最後に「全社的な利益意識の共有」を行います。
集計された数値は経営陣が眺めるだけでは意味がありません。
可視化された粗利データを、営業や管理部門を含めた共通言語として日々の業務に落とし込むことが不可欠です。
例えば、毎月の定例会議では売上高の推移だけでなく、システムから抽出した「案件別の確定粗利」をベースに議論を進めます。
精算割れで利益が落ちた案件や、原価負担が重い案件に対し、営業と管理部門が一体となって「次回の更新時に単価交渉すべきか」「より高利益な案件へ人員を再配置すべきか」等の対策を迅速に練るのです。
複数部門が同じ客観的なデータを見て目標を共有することで、古い「売上至上主義」が払拭され、利益が残る筋肉質な組織へと体質改善が進みます。
まとめ:売上至上主義を脱し、持続可能なSES経営へ
本記事では、SES事業で陥りがちな「売上至上主義」の危険性と、案件別収益を一元管理するメリットを解説しました。
エンジニア数が増え、表面上の売上高が伸びている時期こそ注意が必要です。
アナログなExcel管理や部門間の情報分断を放置すると、精算割れや見えない原価の膨張に気づけず、知らず知らずのうちに会社の体力が奪われてしまいます。
利益重視の経営へシフトするために必要なのは、精神論ではなく具体的な「仕組み」です。
- ・正確な原価計算ルールの策定
- ・脱Excelによるシステム移行
- ・全社での粗利データの共有と活用
この3ステップを確実に踏むことで、根拠のある単価交渉や迅速な経営判断が可能になります。
目先の「売上」だけでなく、案件ごとの「真の利益」に向き合うことこそが、持続可能で強い組織を作る唯一の道です。
まずは自社の管理体制を見直し、利益の残る健全な経営へ第一歩を踏み出しましょう。
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