SES業界の経営者や財務担当者にとって、プロジェクトごとの正確な原価把握は長年の課題です。
「どんぶり勘定」から脱却し、利益を最大化するためには何が必要か。
本記事では、Excel管理の限界からクラウドERP導入による劇的な改善、そして失敗しないシステム選定のポイントまでを解説します。
健全な経営基盤を築き、未来の成長を確かなものにするための第一歩をここから踏み出しましょう。
SESの原価管理がどんぶり勘定になる理由
SES業界の収益構造は、エンジニアのアサイン状況や稼働日数に直結します。
しかし、多くの企業では営業の変更が経理まで正確に届かず、結果として不正確な「どんぶり勘定」に陥っています。
なぜSESにおいて精緻な原価管理が不可欠なのか、そして営業で起きている情報の目詰まりが経営にどのような影響を及ぼしているのか、その実態を紐解いていきます。
人件費と外注費の管理が分断される
SES事業における原価管理を難しくしている根本的な要因は、自社のプロパーエンジニアにかかる「人件費」と、パートナー企業から参画するエンジニアへの「外注費」のデータが分断されている点にあります。
多くの中堅・中小SES企業では、プロパー社員の給与などの原価データは人事・労務部門のファイルで管理され、パートナー企業への発注額や請求データは営業や経理部門の別ファイルで管理されています。
プロジェクトという一つの軸に対して、これら出所の異なるデータを手作業で紐付けなければならないため、原価の全体像を把握するハードルが極めて高くなります。
「この案件の総原価はいくらか」という問いに対して、担当者が複数のExcelファイルを開き、目視や関数で必死に突合する作業が発生しており、これが原価が不透明になる最初のつまずきとなっています。
アサイン変更や稼働日数の変動
さらに、SESの現場は非常に流動的であり、案件稼働中のアサイン変更や稼働日数の変動が毎月のように発生します。
「月半ばで体制が変更になり、AさんからBさんへ担当が交代した」「顧客都合で特定のエンジニアのみ今月の稼働日数が予定より少なかった」といった事象は日常茶飯事です。
このような動的な変化が起こるたびに、月額の固定費として単純計算することができなくなり、稼働日数に応じた日割り計算などを都度行わなければなりません。
よくある失敗例として、客先で発生した急なアサイン変更が営業担当者から経理に共有されておらず、経理担当者が前月と同じ原価(固定費)のままで集計してしまうケースが挙げられます。
「誰が、どの案件に、どれだけ稼働したか」という正しい情報が経理へ正確に届く仕組みがない限り、実態と乖離した見積もりベースの「どんぶり勘定」に陥らざるを得ないのです。
複雑な精算ルールの適用と計算負担
極めつけは、SES契約特有の「基準時間」に基づく複雑な精算ルールの存在です。
契約上の基準時間を超過した際の増額(超過精算)や、満たなかった場合の減額(控除精算)の計算は、Excelでの手作業を最も過酷にする要因です。
精算には「上下割(上限時間と下限時間それぞれの基準を用いて単価を算出する方式)」と「中間割(基準となる中間時間を用いて単価を算出する方式)」といった全く異なる計算方式が存在します。
案件やクライアントごとにこれらのルールが入り乱れているため、担当者が定義を取り違えたり、計算式を混同して手計算してしまったりするミスが多発します。
条件分岐が複雑な精算計算を担当者の記憶や複雑化したExcelファイルに依存している状態は非常に属人的かつ危険であり、ミスを防ぐための確認作業だけでも管理部門に多大な負担を強いることになります。
Excel集計の限界と経営判断の遅延リスク
多くのSES企業が長年使い続けてきたExcelによる原価管理。
一見手軽ですが、規模が拡大するにつれてデータの回収や転記作業は膨大な負担となり、人為的なミスも避けられなくなります。
何より、集計に時間がかかることで「今」の利益が見えないタイムラグが発生します。
本章では、Excel管理が抱える構造的な限界と、それが招く経営上のリスクを具体的に解説します。
各部署からのデータ回収に追われる
Excelを用いた手作業の原価管理において、財務・経理担当者を最も疲弊させているのがデータの回収と転記作業です。
月末の締め日が過ぎると、管理部門は営業担当者から稼働報告書のExcelを集め、エンジニアからは交通費などの経費データを回収し、さらにパートナー企業からはフォーマットの異なる請求書(PDFや紙)を受領しなければなりません。
これら出所も形式もバラバラなデータを一つの「プロジェクトごとの原価管理表」に手入力で転記していく作業は、経理部門を単なる「データ収集・入力代行部署」へと陥らせています。
よくある失敗例として、営業が提出したExcelの関数が壊れていたり、最新版ではないファイルが共有されたりすることで、経理側で手戻りが幾度となく発生し、本来行うべき財務状況のチェックに全く手が回らなくなるケースが後を絶ちません。
締め後から粗利確定まで数週間かかる
データ回収の煩雑さは、経営層にとって最大の痛手である「タイムラグ」を引き起こします。
前項の通り、月初に各所からデータをかき集め、Excel上で人件費や外注費を突合し、複雑な精算ルールの計算を手作業で完了させるまでには膨大な時間がかかります。
結果として、前月のプロジェクトごとの正確な原価や粗利が確定するのは、締め日から数週間後、遅い企業では翌月になってしまうことも…。
これでは、経営会議で「前月の着地見込み」を報告する際、営業担当者の感覚値に基づく「どんぶり勘定」の数字を並べるしかなくなります。
過去の数字を集計する作業に何週間も費やしている状態では、経営層がタイムリーかつ正確なデータに基づいたスピーディーな経営判断を下すことは不可能です。
赤字案件に気づけない深刻なリスク
原価確定の遅延は、単なる業務効率の問題にとどまらず、企業全体の利益率を圧迫する致命的な経営リスクに直結します。
正確なプロジェクト粗利が見えるのが翌月下旬になるということは、「実は稼働がかさみすぎて実質赤字に陥っていた案件」への初動対応が1ヶ月遅れることを意味します。
たとえば、炎上気味のプロジェクトに急遽ヘルプで単価の高い自社エンジニアを投入した結果、売上は変わらないのに原価だけが跳ね上がり、利益が吹き飛んでいるケースです。
締め作業後すぐに正しい原価が把握できていれば、即座に顧客へ単価交渉を持ちかけたり、次月からの体制を見直したりする手が打てます。
しかし、Excel集計によるタイムラグのせいで、気づいた頃にはすでに赤字が2ヶ月分膨れ上がっており、事後での交渉も通らずに泣き寝入りするしかないという深刻な事態を招いてしまうのです。
クラウド導入でプロジェクト原価を紐付ける
Excelの限界を突破する鍵は、クラウドシステムによるデータの一元管理にあります。
これまでバラバラに管理されていた売上、人件費、外注費をプロジェクト単位で紐付けることで、原価管理の姿は劇的に変わります。
集計作業を自動化し、正確な数字を即座に把握できる仕組みをどう構築すべきか。
クラウド導入がもたらすプロセス改善の具体像を見ていきましょう。
分散したコストデータを一元管理
Excel管理の最大の弱点であった「データの分断」は、クラウドシステムを導入することで根本から解決できます。
これまで営業や人事、経理がそれぞれ個別のファイルで管理していた「案件情報」「プロパー社員の人件費」「パートナー企業への外注費」といったあらゆるコストデータを、一つのデータベース上に集約し、プロジェクト単位で紐付けることが可能になります。
たとえば、あるプロジェクトに対して「誰が・いつ・どの単価で稼働したか」というアサイン情報と発注データをシステム上で結びつける手順を踏むだけで、原価の構成要素が自動的に紐づきます。
よくある失敗例として、製造業やクリエイティブ業界向けの原価管理ツールを導入してしまい、SESの商習慣に合わず頓挫するケースがありますが、SESを行う中小企業が求めるのは、特定の業界に特化した複雑な仕組みではなく、受注・発注・経費といった基本情報をシンプルに一元化できる汎用的なシステムです。

締め作業後の集計スピードを劇的改善
データが一元管理される最大のメリットは、月末の締め作業後にかかる「データ集計のタイムラグ」を劇的に解消できる点です。
案件情報やパートナー企業からの請求見込み額などがシステム上に蓄積されていくため、月末に管理部門がデータの「締め処理」を行った瞬間に、複雑な精算ルールを含めたプロジェクトごとの正しい売上と原価、そして粗利が自動的に弾き出されます。
これまでのように、営業からの報告漏れを確認したり、Excelの数式エラーを直したりしながら何週間もかけて突合する手順は不要になります。
前月の正確なプロジェクト収支が翌月初旬の経営会議には確実に手元にある状態を作れるため、「実質赤字になっている案件に気づくのが遅れ、傷口をさらに広げてしまう」といった経営判断の遅延リスクを未然に防ぐことができます。
負担を増やさず可視化する
新しいシステムを導入する際、経営層が最も懸念するのが「エンジニアや営業担当者に入力の手間が増え、結局定着しないのではないか」という点です。
事実、よくある失敗例として、エンジニアのスキル条件検索や複雑な休暇申請機能などが詰め込まれた多機能すぎるシステムを導入してしまい、「入力項目が多すぎて本来の業務の邪魔になる」と反発されて運用が回らなくなるケースがあります。
原価管理のクラウド化を成功させる手順として重要なのは、機能の豊富さよりも入力ハードルを下げることです。
また、既存のExcelフォーマットから請求データを直接システムへ移行・取り込もうとするような無理な運用も、かえってエラーを誘発し経理の負担を増やします。
稼働実績の入力画面がシンプルで、業務フローを大きく変えずに正確なデータだけが経理に集まる仕組みを構築することが、脱どんぶり勘定への最短ルートとなります。
自社に合うクラウドERPの選び方と注意点
クラウド導入を成功させるには、単に多機能なシステムを選べば良いわけではありません。
SES特有の商習慣に合わないツールや、負担が重すぎる仕組みは、運用で失敗するリスクが高まります。
自社の規模に見合っているか、入力ハードルは低いかといった、導入後に「形骸化させない」ための選定基準が重要です。
ここでは、失敗しないシステム選びのポイントを整理します。
中小企業向けで汎用性が高いか
システム選定で陥りやすい罠は、「高度な機能があるかもしれない」と特定の業種に特化した多機能システムを選んでしまうことです。
製造業やクリエイティブ業、卸売業向けなどの原価管理ツールには、SES事業には不要な在庫管理や複雑な工程管理機能が多く含まれます。
これらを無理にSESのプロジェクトに当てはめようとすると設定が煩雑化し、担当者が使いこなせずに数ヶ月で頓挫する失敗例が後を絶ちません。
中小規模のSES企業が選ぶべきは、受注・発注・経費といった基本機能が網羅され、プロジェクトを軸に原価の紐付けがシンプルに行える「汎用性の高いクラウドERP」です。
特殊な機能よりも、会社のお金の出入りを確実に追えるシステムこそが、最短での業務改善に繋がります。
複雑な機能より定着しやすさを重視
システム検討時、ベンダーのデモ画面の見栄えや「あれもこれもできる」という多機能さに惹かれがちですが、機能の多さと定着のしやすさは比例しません。
たとえば「エンジニアのスキル条件検索」や「システムでの複雑な休暇申請機能」などは一見便利に思えますが、担当者にとっては入力の手間が増えるだけです。
結果的にデータが更新されなくなり、システムが形骸化する失敗例は少なくありません。
システム導入の真の目的は、あくまで売上と原価を紐付けて利益を可視化することです。
オーバースペックな機能に惑わされず、稼働時間やコストを迷わず入力できる「シンプルな操作性」を最優先に評価してください。
定着しなければ、どれほど優れたシステムも無意味なのです。
| 比較項目 | 失敗しやすいシステム (多機能・他業種向け) |
推奨されるシステム (シンプル・汎用ERP) |
| 主なターゲット | 製造業、クリエイティブ業、大手企業など | 中小規模のSES企業、ITサービス業など |
| 機能の特性 | エンジニアのスキル検索、複雑な工程管理など、 SESの原価管理には不要な機能が多い |
受注・発注・経費といったお金の出入りを 追う基本機能に特化している |
| 営業の入力負担 | 入力項目が多く画面が複雑。 業務フローを阻害し、入力漏れが発生しやすい |
項目が最小限で直感的に操作可能。 既存の業務フローにスムーズに馴染む |
| 導入後の結果 | 定着せずシステムが形骸化。 結局経理が手作業でExcel集計する状態に戻る |
経理へ正確なデータが即座に集まり、 リアルタイムな原価・粗利の可視化が実現する |
既存の業務フローを変えすぎないか
クラウド化の定着には「現状の業務フローにどこまで寄り添い、何を捨てるか」を見極める視点が欠かせません。
システムに合わせて承認フローを根底から変えようとすると反発を招きますが、過去の手法への固執も危険です。
よくある失敗例が「従来のExcelの請求書データを、そのままシステムへ直接移行・取り込みしようとする」ケースです。
各社バラバラなフォーマットを無理に流し込むと取り込みエラーが頻発し、結局経理が手作業で修正する羽目になります。
正しい手順は、過去の複雑な独自Excelを捨てる決断をし、システム標準の入力フローへ切り替えることです。
社内の「承認順」などの良いルールは維持しつつ、データ入力手段はシステムに合わせて標準化する柔軟性が導入成功の鍵となります。
脱どんぶり勘定がもたらすSES経営への好影響
正確な原価管理体制が整うことは、単なる事務効率化に留まりません。
それは、経営層がデータに基づいたスピーディーな判断を下せる「武器」を手に入れることを意味します。
利益率の低い案件を早期に見極め、営業リソースを最適化することで、会社全体の収益力はどのように向上するのか。
脱どんぶり勘定がもたらす、SES経営の明るい未来についてお伝えします。
利益率の高い案件へ営業リソースを集中
一元管理が実現し、締め処理直後にプロジェクトごとの正確な粗利が可視化されると、経営における「攻め」の判断が劇的に速くなります。
たとえば、これまでは「売上高が大きいから」という理由でエース級エンジニアを投入し続けていた大型案件が、実は度重なるアサイン変更や外注費の膨張で「実質赤字案件」だった事実にも即座に気づけます。
よくある失敗例として、どんぶり勘定のまま闇雲に売上規模だけを追い求め、会社全体の利益が圧迫されて資金繰りが悪化するケースがあります。
正しい手順としては、早期に確定した粗利データを元に、営業部門へ「薄利の案件は単価交渉を行うか撤退し、利益率が高い優良案件へリソースを集中させる」と明確な指示を出すことです。
これにより、会社全体の利益体質を強固に変革できます。
管理部門が「作業者」から「財務のプロ」へ
脱どんぶり勘定は、管理部門の役割を根本から変革します。
これまで月末月初に各部署からのデータ回収や、Excelでの突合といった「過去の数字をまとめるだけの事務作業」に追われていた経理・財務担当者が、その作業時間から解放されます。
よくある失敗例として、システムを導入したのに営業担当者がシステムへ入力せず、結局経理が代行入力して負担が変わらないケースがありますが、営業部門からの入力フローさえ定着すれば、管理部門の残業時間は劇的に削減されます。
浮いた時間を活用して行うべき次の手順は、未来の利益を生み出す「財務分析」です。
赤字化の兆候がある案件への早期アラートの発信や、単価交渉のための根拠データ作成など、より生産性の高い業務へシフトできます。
管理部門が単なる「作業者」から、経営の強力なパートナーである「財務のプロ」へと進化することこそが最大のベネフィットです。
まとめ:データに基づいた「攻めの経営」へ
SES企業の経営において、プロジェクト単位の正確な原価把握は、安定した収益を維持するための生命線です。
Excel管理による「どんぶり勘定」から脱却し、クラウドERPによって売上とコストをリアルタイムに紐付けることは、単なる業務改善ではなく、経営そのものの質を高める投資と言えます。
まずは入力負担を最小限に抑えつつ、営業と経理がシームレスに情報を共有できる仕組みを整えることから始めましょう。
数字が透明化されれば、管理部門は「財務のプロ」として経営を支え、営業はより利益率の高い案件へと注力できるようになります。
正確なデータこそが、変化の激しいSES業界を勝ち抜くための確かな道標となるはずです。
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