
人時生産性は、生産性向上が求められている現在、とくに注目したい指標といえます。自社の経営状況を分析する場合、さまざまな指標に目を向けて、数字上から客観的に判断することが大切です。
この記事では人時生産性について、注目される理由、計算方法・具体例、向上させるポイントなどをまとめます。
人時生産性とは?
人時生産性とは、従業員1人が1時間でどれだけ粗利を生み出せるかを示す指標です。人時生産性の指標を用いれば、経営状況の分析や、経営に関する意思決定を迅速に行うための判断材料となります。
人時生産性が競合他社に比べて高い場合は、より利益を生み出しやすく、優れた企業といえるのです。
労働生産性との違い
労働生産性とは、投入する労働力に対し、どの程度の生産量、生産額、または付加価値を上げられるのか判断する際に利用される指標です。
労働生産性は「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類に大きく分けられます。それぞれの計算式は、以下のとおりです。
- 物的労働生産性
=生産量(個数など)÷労働投入量(従業員数、または従業員数×労働時間)
- 付加価値労働生産性
=付加価値額(総生産額-原材料費や外注加工費、人件費、運送費などの外部購入費用)÷労働投入量(従業員数、または従業員数×労働時間)
簡単に例を挙げてみましょう。
工場で従業員10人が8時間働き、1個当たりの売上500円・材料費100円の商品を1,000個生産した場合、物的労働生産性と付加価値労働生産性は、それぞれ以下のように求めます。
-
- 従業員1人当たりの物的労働生産性:
1,000個÷10人=100個
従業員1人1時間当たりの物的労働生産性:
1,000個÷(10人×8時間)=12.5個
- 従業員1人当たりの物的労働生産性:
- 従業員1人当たりの付加価値労働生産性:
(500円-100円)×1,000個÷10人=40,000円
従業員1人1時間当たりの付加価値労働生産性:
(500円-100円)×1,000個÷(10人×8時間)=5,000円
広義的には、人時生産性も労働生産性に含まれます。労働生産性は、生産量や生産額、付加価値などのさまざまな産出量を求める大括りである一方、人時生産性は粗利のみに焦点を当てています。
人時売上高との違い
人時売上高は、従業員1人当たりが1時間でどれくらいの売上を出したかを表す指標です。人時生産性は従業員1人1時間当たりの粗利を表す指標になるので、混同しないように注意しましょう。
たとえばAさんが1時間で10,000円の売上を上げた場合、人時売上高は10,000円/時間となります。一方、人時生産性では粗利を求めるため、売上から経費を引かなければなりません。
経費が5,000円でかかった場合、計算式は「売上10,000円-経費5,000円/1時間」となり、人時生産性は5,000円/時間です。
人時生産性が注目される理由は?
人時生産性が注目されている理由をまとめてみました。
1点目の理由は「少子高齢化による労働力人口の減少」です。日本は年々少子高齢化が進行しており、労働人口が減少の一途をたどっています。内閣府の試算では、2050年には生産年齢人口が1995年と比べて29.2%も減少すると見込まれているのです。
また総務省統計局が発表した「主要国における高齢者人口の割合の推移」を見ると、各主要国の中でも日本の高齢化率が高いことが分かります。
労働人口が減少するということは、企業にとっては死活問題です。社内の人手が不足してしまうと、同じ業務量をこなすための従業員1人当たりの負担が増大し、その結果として労働環境の悪化や、従業員の意欲低下や離職者増加につながるでしょう。
このように将来やってくる労働人口減少に備えて、近年では、少ない人数でも経営が成り立つような仕組みづくりが求められています。そのひとつとして人時生産性の向上が重要です。
2点目の理由は「日本の生産性の低さ」です。日本の生産性はOECD加盟国の中でも水準が低く、2021年の時間当たりの労働生産性は38ヶ国中27位でした。OECD加盟の主要先進国7カ国の中では日本が最下位という結果になっているのです。
(出典:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」)
日本の生産性の低さは、長時間労働の常態化により、労働時間当たりの生産性が低下していることが原因といわれています。日本における生産性の低さを解決するために必要なのが「働き方改革」です。
厚生労働省は働き方改革を推進しており、人時生産性がフォーカスされるようになりました。働き方改革を後押しするために、時間外労働の上限規制や、割増賃金率引き上げなど、労働基準法が改正されているのです。
労働基準法の改正によって、今後は従業員の作業負荷アップだけでは業務に対応できなくなるリスクがあります。そのため、生産性を分析する指標である「人時生産性」が注目されているというわけです。
人時生産性の計算方法と具体例
人時生産性の計算方法を簡単に説明すると「粗利額÷総労働時間」となります。
値が高いほど、従業員1人の時間当たりの粗利率が高くなる計算です。
粗利額は「売上高-売上原価」から求められます。
売上原価とは商品やサービスを売り上げるために費やした原価です。
製造業であれば仕入れにかかった費用や、商品製造に携わった従業員の人件費などが売上原価に含まれます。
つまり、人時生産性の計算方式は【人時生産性=(売上高-売上原価)÷総労働時間】となるのです。
具体的な例を挙げてみます。
売上高1,000万円・売上原価(仕入原価+人件費)200万円・粗利額800万円、総労働時間3,200時間の企業Aと、売上高1,500万円、売上原価(仕入原価+人件費)600万円、粗利額900万円、総労働時間4,000時間の企業Bがあります。
企業A | 企業B | |
売上高 | 1,000万円 | 1,500万円 |
売上原価(仕入原価+人件費) | 200万円 | 600万円 |
粗利額 | 800万円 | 900万円 |
総労働時間 | 3,200時間 | 4,000時間 |
この場合のそれぞれの企業の人時生産性の計算式は以下の通りです。
・企業Aの人時生産性:(1,000万円-200万円)÷3,200時間=2,500円
・企業Bの人時生産性:(1,500万円-600万円)÷4,000時間=2,250円
一見すると、売上高も粗利益額も企業Bの方が多いため、企業Aに比べて企業Bの方が高い生産性を持っているとイメージしてしまうかもしれません。
しかし実際に人時生産性をみると、企業Aの方が生産性に優れていることがわかります。
人時生産性を計算する際には、労働時間と粗利益率の数値を正確に把握する必要があります。正確な数値でなければ、計算結果も不正確な数値になってしまうでしょう。計算結果と実際の数値に差があった場合、会社の現状を正しく理解することはできません。
とくに労働時間は、勤務管理体制がきちんと整備されていなければ把握しにくい数値です。把握しきれていない残業などが発生しないよう、業務量の改善や職場の働きやすさに取り組むといった工夫が必要になります。
人時生産性を向上させる5つのポイント
人時生産性を向上させるためには、具体的にどうすればよいでしょうか。人時生産性を向上させる5つのポイントをまとめてみました。
業務の効率化を図る
人時生産性を向上させるには、業務効率化を図ることが大切です。業務効率化によって、労働時間削減を目指しましょう。
業務プロセスには、さまざまな無駄やボトルネックが発生します。ボトルネックとは、業務停滞や生産性低下などの問題を招いている阻害要因のことをいいます。
しかし、現場で働く従業員は変化を嫌って相談しないケースも多く、こうした要因はなかなか改善されにくいのが現状です。まずは業務内容を洗い出して、業務の無駄やボトルネックを把握・解消しましょう。
業務がうまく進まなかったり、大幅に時間がかかったりしている場合、そのほとんどは、どこかの工程で局所的に問題が発生しています。特定のメンバーにのみ業務が集中していないか、毎回時間がかかってしまう工程はないかなど、ボトルネックを洗い出してみましょう。
ボトルネックを把握して解消することで、業務効率の向上が期待できます。業務プロセスを定期的に最適化することで、総労働時間を削減でき、その結果として人時生産性も向上します。
従業員の配置を見直す
人時生産性を向上させるためには、従業員の配置の見直しが必要です。従業員の配置を見直すことで、総労働時間を減らせます。
従業員の能力や作業適性は、一人ひとり異なります。パソコンは不得意であっても力仕事では高いパフォーマンスを発揮する従業員もいれば、その反対の従業員もいるでしょう。
こうした適性に合わせた人材配置を行うことで、生産性が向上します。同じ業務を可能な限り短時間で処理することが大切なため、従業員の適性やチームバランスを踏まえたうえで人材配置を検討してください。
配置の適正化は、生産性向上の点で非常に重要な取り組みですが、従業員のモチベーション向上にも影響します。どの仕事を誰が担当するのか精査し、従業員の適材適所を行えば、労働時間の削減が見込めるでしょう。
正確に数値を管理する
人時生産性を向上させるためには、計算で使用する総労働時間や粗利額などの数値が正確でなければなりません。労働時間をExcelで管理している場合、従業員が正しい時間を入力しないケースもあります。
不正確な数値で算出した人時生産性では意味がなく、課題の真因を見誤ってしまうかもしれません。常に正確な数値を管理できるシステムを用意しておくことが、企業として求められます。
従業員のモチベーションを維持する
人時生産性を向上させるためには、従業員のモチベーションを維持する必要があります。モチベーションが低い従業員は人時生産性も低下しやすいでしょう。
人時生産性を高めるために業務効率化や、従業員の配置見直しを行うことがありますが、業務のやり方を大きく変更する場合には、従業員に対して丁寧に説明を行い、認識を共有することが重要です。
コミュニケーションがうまくできていないと、従業員のなかで不満や戸惑いが発生し、モチベーション低下につながる可能性があります。こうした場合、生産性低下を引き起こすおそれもあるでしょう。
従業員のモチベーションを維持するために、定期的なミーティングの実施や、人事評価制度の見直しが有効な手段といえます。
システムを利用する
業務の効率化や、正確な数値を管理するためには、システムやITツールの利用・導入が欠かせません。
システムを活用することで、これまでの業務にかかっていた作業時間を削減できる可能性があります。たとえば、従来は手作業で行っていた業務をシステムやITツールに任せれば、業務時間を半分に減らすことも可能です。
データの手入力や紙書類によるやりとりが多い企業では、ITツールの活用やRPAへの置き換えによって、作業時間の短縮を図れるかもしれません。システムを活用して、人がこれまで行っていた作業をコンピュータに置き換えることです。
また、業務システムを導入すれば、粗利額や総労働時間における厳密な管理ができます。ヒューマンエラーの抑制にもつながり、修正の手間も省けます。数値を厳密に管理できれば、正確な人時生産性の把握ができるでしょう。
その他、部署・部門間でチャットツールなど同じITツールを導入すれば、コミュニケーションや情報共有の円滑化が期待できます。
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しかし事務SOLは、中小企業向けの価格で利用できます。Excelや単品ソフトではできなかった情報の一元管理が可能で、各業務がひとつのシステムで連携しており、転記作業や集計作業が一切必要ありません。そのため、転記ミスや集計にかかる無駄な時間を削減できます。
また、使わない機能に関しては目隠しができるため、自社のオリジナルシステムのように管理することが可能です。
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まとめ
人時生産性を向上させることは、企業の成長において欠かせません。そのためには、業務プロセスの効率化や、正確な数値管理、従業員のモチベーション維持、従業員の配置見直し、システムやツール導入など、さまざまな方法があります。
とくにシステムやITツールの導入は、すぐに取り入れることが可能です。システムやITツール導入によって、総労働時間削減や従業員のモチベーションアップ、正確な数値の把握などにつながります。
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